たとえばあなたが
部屋を出る小山を見届けると、千晶は萌のデスクを見た。
たくさんのファイルが積まれていて、それは片付けが苦手な萌の性格をよく表している。
萌は今日、新規契約の交渉を兼ねて、営業先との食事会に行ってしまった。
(こんなときに限って、いないんだから)
小山のことを気に入っていた様子だったから誘ってやりたかったのに、運が悪い。
(コンパがいつも不発なのも、こんなふうに運のなさを発揮してるからなんだろうな)
そんな萌のためにも、なるべく多くの小山情報をゲットしなくては、と千晶は気合を入れた。
「おつかれさまです」
残業をしている社員に声をかけて、千晶は2年以上前に買ったブランドバッグを肩にかけた。
(最新とはいかないけど、きちんとしたバッグを持っててよかった)
小山のようなスタイリッシュな人と行動を共にするようになって、自然に通勤着や持ち物を意識するようになった。
マンネリの毎日の生活に張りが出て、背筋が伸びる思いだ。
エレベーターに乗り込んで1階のボタンを押すと、千晶はエレベーター内の鏡で襟元を正した。