たとえばあなたが
夜間のビルのロビーは、陽射しが入って明るい昼間とは一転、オレンジ色のライトで照らされ、ムーディな雰囲気を醸し出す。
革張りのソファが置かれた一角を見ると、まるで高級ホテルのラウンジのようだ。
小山は、そのソファに座って携帯を見ていた。
「お待たせしました」
千晶が声をかけると、小山はハッと顔を上げ、微笑んだ。
「おつかれさまでした。行きましょうか」
と立ち上がり、スーツのポケットに携帯を入れる。
「ところで木村さん」
歩き出すと同時に、小山が苦笑いで千晶を見た。
「こちらからお誘いしておいて申し訳ないんですが、実は僕、まだこちらに越してきたばかりで詳しくないんです。どこかいい店、ご存知ないですか」
部長によると、小山は先月東京に越してきたばかりらしい。
「あ、そうですよね…えーっと、どうしようかな」
千晶は何も考えずに来てしまい、焦って頭を回転させた。
(…いい店、いい店…ていうか私も詳しくないわ)