たとえばあなたが



やがてタクシーが目的の店の前で停止した。



「あれ?」

店の看板はたしかにネオンに照らされているが、その看板に何か張り紙がしてあった。

「なんだろう。見てくるから待ってて」

小山はタクシーを降り、張り紙を確認するとすぐに引き返してきた。

「今日、貸切だって」

「え~どうしよう」

すっかりこの店に入るつもりだった千晶は、困った声をあげた。

飲食店というだけなら、そこかしこにいくらでもある。

しかし、せっかく初めて一緒に食事に行くのだから、店選びで失敗したくない。



「……」

「どうしよう。そのへんの店にしようか」

腕を組んで考え込む千晶を、小山が気遣った。

「あ、ちょっと待ってください。心当たりがないことはないんですけど…」

そう言って小山をチラリと見上げると、小山は、

「へぇ、どこだろう。楽しみだな」

とニッコリ笑った。



千晶は少し考えたあと、

「じゃあ、青山までお願いします」

とタクシーの運転手に告げた。




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