たとえばあなたが
千晶は小山と向かい合って座ると、
「ここ、店は和風だけどお料理は何でもありますから」
と言って品書きを開いた。
和紙の品書きには、和子の手による字で、さまざまな料理名がびっしり書かれている。
「へぇ、すごいですね」
と、小山は驚いた。
「これだけの材料を確保するだけでも、大変そうだ」
千晶は顔を上げて、突き当たりにある暖簾を指差した。
「奥には座敷席があるんですけど、そのさらに奥に食材を保管する部屋があるんです」
指の先の暖簾は、徳島の藍で絹を染めたもので、独特の透け感が美しい。
店が開店したときに千晶の父親が贈ってくれたのだ、と和子が教えてくれたことがある。
上品な色合いで、店をワンランク上に見せるのに一役買っていた。
その暖簾の向こうからは、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「木村さん、このお店に詳しいんですね」
店のバックヤードまでは、いくら常連といえどなかなか知れるものではない。
驚く小山に、
「お手伝いしたこともあったので」
と、千晶は照れたように答えた。