優しい君に
呼んでも振り返ってくれないその背中を見て、私は足を止めた。




追いかける勇気はなかった。





私の知らない大ちゃんを、追いかける勇気が。




「………っ…」




頬を、涙が伝った。




惨めで、怖くて、悲しくて。





─『櫻井さん、泣いてるじゃん。』

─『かっわいそ~』



なんて、惨め。





「…櫻井さん?」






柔らかい声。


春風みたいな、優しい声。


聞いたことのある声。



溢れる涙を隠すように、私はただ俯いた。





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