二片の桜
ふらりと砂柚の足がふらついた。
「ま………待って!」
動揺で声は掠れる。
沖田は、静止を振り払い強く―――けれど、どこか優しく砂柚を引っ張った。
そして、新撰組と達筆な字で書かれた看板がかかる門。
古風のある建物の前に来た砂柚は泣きそうになる。
自分が怪しいと疑われているのなら、どうなるのだろうか…?
怖くて頭が真っ白になり喉はカラカラに渇いた。
その時、繋がれた手首から沖田の手が離れ優しく手を握られる。
「大丈夫…ですよ。
貴方が不審人物ではないと分かれば、直ぐに解放してあげますから。」
それは、ほっとするような優しい笑顔だった。
何を考えているのか分からない人…。
でも…そうだよね。
私は不審人物ではないし、大丈夫…。
言い聞かせるように繋がれた沖田の手に力を込めた。
「はい。大丈夫ですよ。」
そう言って砂柚も、にっこりと笑う。
先刻までの不安気な表情は一切見せずに。
それからの砂柚の足どりはしっかりとしていた。
泣いてなんかいられない。