二片の桜
一瞬だけ眉を潜めた男は柚羅の手を引いていく。
「そうだ、君の名前は?」
「可愛柚羅。あなたは?」
「僕?僕は吉田稔麿。」
そう言って、すぐに口を噤んだ。
会ったばかりの少女に本名を告げるのは安易ではない。
偽名を教えるつもりだったが、彼女が素直なせいだろうか。
咄嗟に本名を口にしてしまっていた。
「どうしたの…?」
「別に何もないよ。」
柚羅は首を傾げるも、首を縦に振る。
稔麿に連れてこられたのは一軒の木造の建物だった。そう言えば、周りに建つ建物も似た建物が建っている。
まるで………みたい。
だが、具体的で的確な言葉が見当たらない。
思考している間に柚羅は建物の二階にあるとある部屋の前に連れてこられていた。