二片の桜
「ぇ……待って!」
背後から呼び止められ、顔だけを向ける。
「何?」
「どうしてもう一部屋とるの?」
「どうしてって、君が泊まる部屋が必要でしょ?」
子供相手に変な気を起こす男は此処には居ないだろうが、柚羅に気を利かせたつもりだった。
「稔麿さんは、何処に泊まるの?」
「此処だけど。」
すると柚羅は困惑したような表情を浮かべていた。
「そんなの、悪いよ。
それに、これは夢の中だから…
眠くならないはずッ。」
と―――は言ったものの、柚羅の上瞼は下瞼と挨拶を交わそうとしている。
「夢?やっぱ眠ぃんじゃねぇの?
稔麿、さっさと行ってきてやんな。」
「わ、私!眠くないってば!」
柚羅は冴えない目を覚まそうと頭を左右に振る。