二片の桜
「え……いえ。」
「俺達は何も喋ってはいませんでしたが?」
肩越しに見た隊士達はこぞって首を振る。総司は、はてと首を捻り前に向き直った。
が、やはり声がする。
それもすぐ傍で。
加えて降って湧いたような気配に緊張が走った。
「っ誰だ―――――!?」
鯉口を切り何時でも抜刀できるようにする。
釣られて隊士達にも緊張が走っていた。
五感を尖らせ周囲を見やろうとするが…。
ふと足元に気配があることに総司は顔をしかめた。
背筋に寒気が走る。
さっきまでは気配なんて無かったはずなのに…。
そして足元に目を向け目を見開いた。
「ゆずら……。」
「なっ………!」
咄嗟に距離を取る。
だが杞憂だったようだ。
地面にうずくまるのは短い黒髪の日本人。
帯刀もしていなかった。
彼は珍妙な着物を身につけていて膝に顔を埋めていた。
「なに奴!?」
「待って!!」
隊士の一人が抜刀しようとし沖田は制した。
「沖田先生!?」
「いいから――!!!」
非難する隊士をよそに沖田は、不審な人物に話しかける。
「ねぇ、貴方はこんな所で何をしているんですか?」
「ゆ、柚羅…。」
「聞いてますか?」
聞いていないらしい。
むっとした沖田は足で彼を払った。押された身体は傾く。
「うわっ…!」
倒れまいと彼は手に地をつけ身体を支えた。