あしながおにいさん
僕の話を
黙って聞き終わった薫は
正直に話してくれてありがとう、
とだけ言って
黙りこくってしまった

やはり
これからの僕を
見てほしいなんて
あまりに調子
よすぎたのかもしれない

案の定重い口を少しずつ開き
僕に対する不満を話し始めた

僕がいちいち
反論していては
ただの夫婦喧嘩になるのと
美雨のことで
うしろめたい気持ちもあったから
黙って最後まで聞くことにした

うわべだけの愛情

無関心を
悟られないようにする努力

同居人

私たちが本当に
辛い時でさえ
感じ取れない本心

寂しさ
やるせなさ
孤独感

薫の口からは
夫として父親として
あまりの不甲斐なさを
切々と語られた

薫からの愛情だけは
正直感じ取っていた僕には
何も言い返すことが
できなかった

薫はついに
その精神的な疲れを
理解してくれた男に
出会ったのだそうだ
雄太を引き取ることにも
快諾してくれた
離婚暦のある男で
薫よりさらに年上らしい

そんな男の話など
耳に入らないほど
自分を恥じていた
すべては遅かったんだ

本当の愛情というものは
どういうものだったのか
気付くのがあまりにも
遅すぎた
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