あしながおにいさん
季節は巡り
また雨の季節が
やってきた

忘れようにも
忘れられないこの季節
6月に入りニュースで
梅雨入り宣言を聞いた

記憶は蘇るが
できる限り
思い出さないように
心がけた

これ以上人間として
落ちぶれるのが怖かった

低俗な言い方だが
天国と
地獄を味わった雨の季節なら
記憶から消し去るほうが
得策だ

天国を思い起こしても
もうそれを
体感することもできない
地獄を呼び寄せても
さらに堕落するだけだ

そんな中
去年の暮れあたりから
一曲の歌が僕の耳に
こびりついて離れなかった

歌詞の内容を知ったとき
また悪夢が蘇りそうだったから
忘れようとしたけれど
どうしても脳裏に
浮かんでしまう

ついには記憶さえしてしまった

切ない恋の歌だ

曲の最後の歌詞に
僕はいつしか
惹きこまれていた

それは僕に何かを
訴えかけるような言葉だった

星の数ほどある
楽曲の中のひとつの歌の
ひとつのフレーズに
戦慄したほどだった
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