あしながおにいさん
動物を心から愛することのできる人は、本当に優しい心を持った人だって聞いたことがある。

僕も、前に飼っていた縁日で売られているようなミドリ亀を、大切に育てたことがあるのを思い出す。


あの愛くるしい二匹の亀のつぶらな瞳が、鮮明に蘇った。家族に「臭い、汚い」と言われ続けても、決
してあきらめなかった。

でも、ある日のこと。二匹が顔を揃えて僕を見つめていた。その目が、僕に語りかけた気がした。

「今まで育ててくれてありがとう。けど、こんなに体が大きくなって、もう迷惑をかけたくありません


僕が、実際は世話をするのに疲れていて、彼らに自由を与えることが本当の優しさだって言い訳を作り
たかっただけなのかもしれない。

いずれにしても、つぶらな瞳に僕も話しかけた。もちろん、心の中で。


「最後までお前たちと一緒にいたかったけど、これが悪いことだってこともわかっているけど、お前た
ちが望む自由をあげることにしたよ・・。」

そしてあくる日の早朝に、もう手のひらくらいにまで成長した亀たちを、近くの池に放した。

そこには、何匹もの亀が棲んでることは知っていた。

僕が立ち去ろうとしたその時、池の真ん中にある岩の上に、その二匹が仲良くよじ登り、僕をじ〜っと
見ていた。

まるで、別れを惜しむかのように・・。

そんな回想をさせてくれるような、美雨の優しい心がいっぱいつまった日記に、僕は素直に感動した。



人の心を動かす・・。

優しい気持ちになれる・・。

ぎくしゃくしている家族を心配することも、彼女の日記を読んだせいなのかもしれないな・・。
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