あしながおにいさん
社員用の保養所があり、格安で豪華な食事も取れる宿があり、毎夏のように出かけていった。


僕は目的地に向かう途中の、東伊豆の海岸線が大好きで、時々運転がおろそかになったのをよく二人から怒られたものだ。


写真の中の母子はよく笑っていた。

僕が被写体になるのは苦手だったので、伊豆高原の気に入った広大な風景や、城ヶ崎海岸の雄大な岸壁を背景に、二人の写真が大半を占めていた。


ああ、また昔を懐かしむやるせない気持ちになってきた・・。


一人で苦笑いしたところで、メールが着信した。


「ん?なにかあったのかな・・」送信者は・・、美雨だ!


日記にコメントがついたお知らせメール!

誰からとは最初の画面に表示されないが、彼女に違いない!恐る恐る開けてみた・・。

やはり・・!

優しい雨が
舞い降りた…。


「お返事遅れてごめんなさい!しかもこんな夜遅くに・・ご迷惑かなって思ったんですが、コメントで聞かれたことがどうしても気になって・・。

美雨がどういう気持ちで眺めていたか・・でしたよね?実は・・、こんなこともあるのですね!

まったくアキさんと同じ気持ちでした!できることならあの大きな海で泳いでもらいたい。

でも、なんにもできない自分が惨めで、偽善者っぽくて、情けなくて。気がつくと、何時間もそこにぺったり座り込んであのウミガメを眺めていました。

実は、美雨、定期的にあのウミガメを眺めに行くんですよお。一人のときもあれば、彼氏と行くことも
・・。なにが楽しくてこいつだけ見てるわけ?ってうざがられますけど(笑)

長々とすいません!また遊びに来ますね!おやすみなさい。こちらはまだ雨がしとしと降っています」


外を見た。確かにしとしと雨は降っている。

美雨も、窓の外を見ながらこの文章を考えたのだろう。

目を閉じると、晴れ渡った空から、水滴が落ちてきて、優しく頬を濡らしていくような・・、


そう、水色の雨に浸っていくような、そんな気分だった・・。
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