あしながおにいさん
薫と雄太が、遅い食事をとりながら、不思議そうに僕を見つめている。

薫は、「どうかした?」と聞いてくるくらいだから、よほど態度がおかしかったに違いない。


雄太も、上目遣いで僕を見つめる。二人の食事を温め、味噌汁がないことに気付いた僕が、手製の味噌汁を用意して二人を出迎えた。
「お帰り!雄太が好きなポップコーンは食べたか?薫、ほら、君がお気に入りの客船。タイタニック号によく似たやつ。前に甲板で映画の真似とかしたよね。今日も見てきたかい?」

返ってくる言葉こそ少なかったけど、いつもなら会話さえ生まれない。なぜだろう。


美雨とのやり取りがあった以外は普段と変わらない一日だった。

なのに、いつもなら家族を前に、できるだけ避けようとする心理が消え去っていた。

むしろ、気遣っていた。


人は楽しかったことがあったら、誰かに話したい、興味を持ってもらいたいと思うもの。

ましてや身近な家族なら共有したいと思うのは当然のこと。

だから、僕から積極的に歩み寄った。

せっかくのディズニーシー、雨だったけど楽しめたかな、写真はたくさん撮れたかな、パソコンに落として早く画像を修正してあげたいな・・・そんなことを思いながら味噌汁を作っていた。


後にこれは、美雨と出会ったことで芽生えた優しさや思いやり、人間として最も大切な心、失ってはいけない気持ちだということに、大いに気づかされることになった・・。
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