あしながおにいさん
上田のようなケースは表面に出ないだけで無数に起こっているんだろうな。


今、この瞬間も…。


美雨とのやり取りとそんなことを比べる気も起きないが、同じフォルダーに中で同じように男女が出会い、お互いを知りあう。


まだ美雨とは二言三言絡んだだけだし、この先どう発展していくかもわからない。


ただ、上田のようなケースが頻繁にあり、世間から白い目で見られている「携帯サイト」での出会いにしては、あまりにも素敵だなって、素直に思った。


まるで…、



そう、胸がときめく初恋のような…。


サイトの中でのミニメールの交換や、伝言板への書き込みだけではもうお互いに満足しないところまで仲良くなっていた。


メアドを教えあい、もうサイトでのやり取りがなくなっていったのは、ごく自然の流れだった。


美雨は、僕の好きなことや、考えに、熱心に耳を傾けてくれた。それだけでなく、まったく別世界のことでさえ足を踏み入れようとし、自分のことのように興味をもってくれた。



バイクツーリングで峠を攻める時に見た山々の美しさが、自分の狂ったように運転していることとの大きなギャップに驚き、恥ずかしかったと話したら、私も自然の中に身を任せるのが好きと返し、


音楽なら昔サザンバンドでドラムしてたと話せば、家の近くにサザンの大ファンのオーナーが居酒屋を何店も持っていて、私もよく行くと返し、好きな曲は「真夏の果実」で、僕と偶然同じだということを幼子のように喜ぶ。



美雨が好きすぎて職業にさえ選んだ花も、もともと嫌いじゃない僕は、図鑑やネットで花言葉を覚え、美雨にその花言葉の由来を詳しく教えてもらい、幻想的な世界を頭に描く。



こうして、二人の距離は急速に近づいていった。
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