あしながおにいさん
鎌倉から江ノ電に乗る。何をどう話したかなんてほとんど覚えていない。


ただ、美雨が心の中に鍵をかけた箱を外に取り出し、中にたくさんつまったストーリーをからっぽになるまで並べ始めているのは確かだ。




まるでパンドラの箱のように…。



解き放つたびに紅潮していく美雨の頬に見とれる自分。


子供のようにこの時が止まればいいのにと願う自分…。


人の話しに必死で耳を傾けるがゆえに、呼吸することさえ忘れ、体力を消耗させてる自分…。




初恋だなと思った。



この気持ちはまさしく、大人な初恋。




僕の動作から遅れること数秒で、それに気付いた美雨も同じことをした。




車窓から霞がかった江の島を、二人でぼんやり眺めていた。
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