あしながおにいさん
「ごめん、ぼーっとしてた‥。今日の僕はどうにかしてるよ‥」


すべて君のせいだよ‥。


ばつが悪そうにする様も情けない‥。


「‥すごくいい顔してましたょ、アキさん‥」


「え‥?」


「アキさんの好きな海の思い出が、頭に浮かんでるんだなって‥」


「‥そ、その通り‥!よくわかるね!?」


「私もよくぽーっとしてますから。私の場合、なんにも考えてないですけど。アキさんは楽しそうだったし、それを断ち切るようなこと私、したくありません。だから、そっとしておきました」


僕は、こんな些細なことにも思いやりの気持ちを忘れない美雨が大きく見えた。

日常生活では、人の目を気にしてなかなか妄想することさえ許されない。


たとえトイレの個室にいようが、何かしら心配事を無理矢理思考フォルダーから引っ張り出し考えてる。


あるいは誰かに話し掛けられ、ささやかな回想も断ち切られる。


美雨は、なにもかもわかってくれて、僕のそんな様子を察知してくれたのか。考え過ぎだとは思わない。


なぜなら美雨は、「通い合う心って、見返りを期待しないで思いやる気持ちがあって初めて生まれるんですよね‥」と、独り言のようにつぶやいたからだった‥。
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