あしながおにいさん
外に出ると、叩きつけるような雨粒がすっと弱まった。桟橋を二人で歩いていたときに降っていた、やさしく体にまとわりつくような霧雨になった。


傘をささずに天を仰ぎ、顔に雫があたるのも気にならない、むしろ気持ちのいいような、そんな雨。美しい雨。


ごめんなさい、私、雨女なんです・・。か細い声で下を向く美雨。雨女だからこそ、雨の降り方も演出できるんじゃないだろうか。


美雨が外を歩くときだけ、雨の神様が、彼女のために優しくなれるんじゃないだろうか。


美雨の大好きな花のように、やさしい雨に当たってこそ彼女が引き立つことを、雨の神様は知っているにちがいない。そして息吹を与える。生き生きとしてくる。


だけど、目の前に咲く花には、揺れる心を持ち合わせていた。ほっておいたらすぐ枯れてしまいそうな、そんな花。


僕はその美しい花を摘み取って持ち帰り、密かに鑑賞することよりも、目立たない場所で成長に適した海洋性の風と、やさしい霧雨と、強さを与える太陽に守られおおらかに生きていく、そんな花を遠くから見つめていることを選んだ。


偶然通りかかった誰かに気に入られ、摘み取られてしまっても、そのときが来るまでは、心を持つこの花に、すこしずつでも養分をあたえられたらそれでいい。
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