あしながおにいさん
くるりと後ろを向いた美雨が、ゆっくり歩き出した。そしてすぐ小走りになった。

さっき少しだけ顔を出していた太陽は、また雲の陰にかくれてしまった。しとしとと降っていた小雨が、心なしか強まってきたような気がする。風も出てきた。

こんな天気で、梅雨も明けていない平日の午後だ。島を訪れる観光客も、おおかた食堂や土産物屋に逃げ込み、ついに周りには僕と美雨以外誰もいなくなったしまった。


階段の代わりに江ノ島を上り下りするエスカレーターの、終着駅の入り口が見えた。雨が強くなり、そこで雨宿りをせざるを得なかった。


エスカレーターのきしむような機械音が響いている。誰も上ってこないし、誰も降りていかない。雨宿りといっても、さえぎる屋根が狭かったので、僕と美雨は肩を寄せ合うようにしてしのいだ。


「うわ、なんか急に激しくなってきちゃったね!」


「ほんとですね!もう帰りなさいって言ってるのかな、神様が」


「そう・・かなあ・・」


エスカレーターを下れば、こんな狭いところでの雨宿りなんて必要なかった。


だけど、僕と美雨は、そのエスカレーターに背を向けて、じっと雨をしのいでいた。
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