あしながおにいさん
「わたしを前にして少し照れながらもすごく注文が細かくて。その熱心さで、ああ、この人は親を大事にしてる人なんだな〜って」


「当ててみようか。今までの美雨のアレンジの中で最高の出来栄えの花束だった・・?」


「はい。そのとおりです。すごく喜んでくれました。それ以来何度か花を買いに来てくれて。もうわたしも二十歳過ぎてたのに、あの出会いが初恋なんだなって思いました」


僕は思った。擬似恋愛の電波が日本中を飛び交い、デジタルな恋がいくつも吐き出されるように成立してしまう中で、絵に描いたようなピュアな出会いを神様は用意していてくれたんだ。

美雨のために。


不思議とやきもきするとか、好きになった美雨の過去にまで嫉妬するとか、そんな感情は生まれなかった。


むしろ、美雨の生きてきた過程の中のことに恋愛に関しては、美雨が話してくれたようなカタチであってほしかった。


だからこそ、今の僕たちの関係のような、不自然な出会いから恋愛に発展するようなことはあってはならない。


美雨には似合わない。


僕はこの現実を受け入れ、ひとつの決心をした。
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