あしながおにいさん
「彼は、とても家族を大切にする人なんです。よく言われました。君のすぐ隣にいる人たちを愛せと。どんなにケンカしようとも、最後に手を差し伸べてくれるのは君の隣にいる人だけだ・・って」


家族・・か。胸に突き刺さる、美雨の、いや、彼氏の言葉。


「そのとおり・・だね、美雨」絞り出すような、苦しげな声を感じ取られただろうか・・。


「だけど、介護の仕事の忙しさや、もともとがさつな人なんで。よくデートもすっぽかされたりもしましたよ。そのことでケンカもいっぱいしたし。けっこうわがままなとこもあって。でも・・」


「いいところがそれをまさってる・・だよね?」


美雨はこっくりとうなづく。


「わたしが仕事のことで落ち込んでたり疲れたりしてるときに限って、ふらりと現れるんです。そして隣にいてくれる。彼という存在と安心感がわたしを包むんです。だから・・だから・・愛しています」


お似合いの夫婦になるはずだと思った。愛情を込めた以心伝心。まさにこれこそが僕や多くの人間に足りないもの。


そんなに順調に婚約までこぎつけた美雨の、どっちかっていうと引っ込み思案な美雨を、不特定多数の人間が蠢くサイトなんかに登録させたのはなんだったんだろう。
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