あしながおにいさん
今では歩いて下山する観光客も少ないのだろう、ふもと近くの土産物店が居並ぶ場所まで人気のない坂道を時折うっそうと茂った森をかい潜りながらゆっくり歩いた。


肩を並べてはいたけど、手を繋ぐ気持ちにはなれなかった。僕の心情の変化だ。


「アキさん…?なぜ…」美雨が僕を覗き込むように見た。



「…さっき『ありがとう』って?」



「うーん…、まずはこんなおじさんとデートしてくれてありがとうって意味かな」


「おじさん?アキさんが?」


「そうだよ、だって四捨五入すれば40歳だしね」



「四捨五入なんかしないでください〜、アキさんって若々しいです。おじさんって言うよりも…」

見た目より若いと言われたことはある。だけど今までで1番嬉しくてくすぐったい気分を美雨が演出してくれた。



「おにいさんです!」


こんな会話でも真剣な眼差しの美雨が可愛らしい。しかもいつの間にか立ち止まってる。


美雨の肩越しに、まだ輝くような色彩を保つ紫陽花がゆらゆら揺れている。


「またお礼言わなきゃね、美雨、ありがとう」


「アキさんは…わたしの…」


「…?」


「わたしの…あしながおにいさんでいてください!」
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