あしながおにいさん
「あしなが…おにいさん…」


「はい。おじさんなんてアキさんに失礼だし。アキさんは『あしながおじさん』読んだりしたことありますか?」


「小説はじっくり読んだことないけど、交通遺児や恵まれない子供達のための育英会は知ってるよ。学生を支援するのは小説をモデルにしてることも」


「そうです!孤児院の女の子が評議員の男性から進学のための支援を受ける代わりに、女の子の身の回りに起こったことを手紙にしたためていくんですよね」


「あ、アニメを見たの思い出した!」


「えー!?私も五年生の時に見ましたぁ!すごく感動して!」


「最後は確か結ばれるんだよね、あしながおじさんと女の子…名前…なんだっけ」


「ジュディです。ジュディ・アボット。私もあしながおじさんみたいな人に巡り会いたいなぁなんて思いました。お金とかじゃなく、どんな些細なことでも聞いてくれるような心の広い男性に…あ…!いえ、あの…」


二人の狭い空間にまた、柔らかい海風が吹き抜けていった。快活に話していた美雨が、はにかみながらうつむく。美雨の恥じらいを隠す癖…。


案の定、すたすたと僕を置いて歩きだす。


「美雨…!待って」
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