あしながおにいさん
ゆっくり振り向く美雨が、「アキさん、紫陽花の花言葉を一言で表すと・・」


「・・?」アングルを確かめる。携帯の画面に映る美雨。被写体ということを意識しすぎて表情が硬い。


「いい表すと?」


「いや、アキさん、やっぱり自分で調べてください。これだけは簡単に教えられません」


「・・え?どうして?」


「なんでもないですう。早く撮ってくださいい」


「その前に、にっこりしてくれないかな」


ますます硬い表情になる美雨。紫色、薄紫色、淡色のピンク。見事に咲き誇る紫陽花と、もじもじしてる美雨を撮った。


もう一枚、さらに何枚か。

「もういいですよね!恥ずかしいです・・」


「ありがとう、素敵な写真撮れたよ!ほんとにありが・・」僕が言い終わらないうちにすたすた先を歩く美雨。



もう土産物店が居並ぶ通りを抜けて、桟橋が見えてきた。左右に広がる湘南海岸の先にぼんやりと半島が揺らめいている。


潮の香りを、海風が運んでくる。もう4時を回ろうとしていた。
< 67 / 111 >

この作品をシェア

pagetop