あしながおにいさん
美雨は、なんのためらいもなく承知してくれた。水族館の中の、大きなウミガメの水槽目指して僕たちは急いだ。


他の海洋生物には見向きもせずに。


お互い残された時間は少ないんだという気持ちがそうさせた。


優雅に泳ぐウミガメを見つけた美雨は、「あ!いたいた!ウミガメさ〜ん!」と子供のようにはしゃぎ、前にそうしたように、床にペタンと座り込んでしまった。


僕はあっけにとられたけど、美雨の横にゆっくりと座った。二人の目の前を、ゆっくりと通り過ぎていくウミガメが、その大きな瞳をこちらに向けたように見えたのは錯覚だったんだろうか。


しばらく二人で幻想的にライトアップされた水槽の中の彼を見守っていた。
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