あしながおにいさん
目の前に灰色のいつもの景色。

5階建ての中古マンション。5階の角部屋。5年前に購入した。

ちょうどこのマンションに移り住んできてから、家族間の絆が急に冷え込んできたような気がする。


いつもの景色。今日も雨だ。エレベーターの中の、大きな鏡で身だしなみをチェックする。

みるからにやつれた自分がいる。

「なんで、こんなふうになっちまったんだ」


毎朝の恒例。自分への問いかけ。


僕は、家族を大切にしてきたつもりだ。

生きていく上で学んだこと。それは、相手の立場になって物事を考え、行動すること。


薫の趣味、雄太の興味。僕なりに理解し、知ろうとする努力をした。

相手の気持ちも察したり、気遣いもしてきた。

僕は、僕がしてきた同じことを妻や息子もしてくれることを、期待した。

昔、学生時代に僕を堕落した人生から救ってくれた音楽やバンド活動。

海が大好きで、スキューバダイビングにのめりこみ、魚と戯れ価値観さえ変わった。

そんな僕の趣味を、家族と共有できると信じていた。
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