あしながおにいさん
洗面台の鏡の自分を見つめてみる。目を真っ赤にした情けない中年男がそこに立っているだけだ。


考えてみたら、美雨に対して手を差し延べるとか悩みを聞くとか恋愛を論じたりする資格あるのかなって思う。


美雨の言葉がまだ耳に残ってる。ずっと私の、あしながおにいさんでいてくださいね…。嬉しすぎて舞い上がる自分と、一人の婚約したばかりの女性に近づき、これからもどんなカタチであれ関係を保てるように『仕向けた』自分がいる。


純粋すぎる美雨の瞳から僕は逃げ出してしまった。やっぱりどんなにいたわりの言葉を並べても、男が女を求めるきれいごとなんじゃないか…?


そうやって自虐的に自分を責めてしまうのは、美雨の、あまりにも無垢な心。

なんの見返りも期待しない純真。

美雨なりに自分の立場や僕のことを考えぬいて気遣いしてくれたに違いない。



『ずっと、あしながおにいさんでいてくださいね…』
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