あしながおにいさん
美雨がどんどん近づいてくる。僕の視界には、彼女しか見えていない。


さっきからいくどとなく、繰り返していたゆっくりと回りを見渡し僕の姿を探す美雨の動きが止まる。美雨の大きな瞳が僕をとらえる。


お互いの視線がぶつかり合った。美雨の唇の、ぎこちない動きが、ア、キさ…んと言う。



美雨、君は暗闇の海を照らす月だ。


「…ごめん、待たせて」


そして僕は、月の力で引き寄せられる海だ。


「ウミガメさんが戻ってきたぁ…」


そう、君に会いたくて。


「うん、ちょっと知り合いのイルカと話し込んでた」


もうすぐ満月。


「嘘に聞こえないです」


君の、その包み込むような優しい笑顔に隠された母性。


「美雨、海…。」


「はい」


「海、見に行こう!」


美雨の手を取った。握り返してくる美雨の掌の強さで、僕と同じ気持ちでいることを感じた。
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