あしながおにいさん
案の定帰りの
電車の中では
二人とも寡黙だった


まだまだ
話し足りない

話したいこと
たくさんあるのに

あれもこれもと
話題が頭を
よぎるだけで
僕の顔をちらっと
見つめては

車窓に吸い寄せられる
美雨の
哀しそうな頬を
見ていると
声さえ出てこない


ふいに美雨が
つぶやくように、


あしながおじさん…
機会あったら
読んでみてくださいね、

と言った


僕は深く頷いた

待ち合わせた場所の
駅に近づいてきた

僕たちは
それぞれの
路線に乗り換え
帰路につく


また、会えるかな

そう聞こうか
聞くまいか
悩んでるうちに
せかすような
乗降ドアが
二人の前で
開け放たれた
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