この出会いが奇跡なら-上-




「どけ」



どこからか聞こえた低い声。



その声が耳に響いた瞬間、あたしを襲おうとした男の顔から、サアっと血の気が引いて行くのが分かった。



「通行の邪魔なんだけど」


「おま…えは…」


目の前の男はそれだけ言い残し、肩を震わせ走り去っていってしまった。


逃げて行ったあの男はもうどうでもいいけど。



通行の邪魔って……

どう見たって、通行の邪魔ではないんだけど。

壁に寄りかかっているわけだし。


そう思ったけど、助かったことには変わりないから、そっと顔を上げてお礼を言おうと思った。



「――ありが……」


でも、顔を上げたあたしは、目の前の彼に一瞬動きを止めた。



「………え」




< 19 / 203 >

この作品をシェア

pagetop