この出会いが奇跡なら-上-
「どけ」
どこからか聞こえた低い声。
その声が耳に響いた瞬間、あたしを襲おうとした男の顔から、サアっと血の気が引いて行くのが分かった。
「通行の邪魔なんだけど」
「おま…えは…」
目の前の男はそれだけ言い残し、肩を震わせ走り去っていってしまった。
逃げて行ったあの男はもうどうでもいいけど。
通行の邪魔って……
どう見たって、通行の邪魔ではないんだけど。
壁に寄りかかっているわけだし。
そう思ったけど、助かったことには変わりないから、そっと顔を上げてお礼を言おうと思った。
「――ありが……」
でも、顔を上げたあたしは、目の前の彼に一瞬動きを止めた。
「………え」