*エトセトラ*
『インフルエンザぁっ!?!?』

「……ご…ごめ…っ…」

電話を弱々しく握り、ゼェハァと息も絶えだえで力なく答えた。



和泉君の帰国前日。

なんと私は、……インフルエンザにかかるという最悪のパターンを迎えてしまった。

絶対に迎えに行くと意気込んでいただけに、とても情けない。

前日の朝、少し熱っぽいなとは思っていた。

和泉君に会える嬉しさから浮かれているんだろうと都合よく考えていたけど、その日の夜には一気に高熱が上がり、そして今朝、病院に行ったらインフルエンザだと診断されたわけで…。

こんなことってないよ……

自分のタイミングの悪さに泣けてくる。

高熱のせいで思考能力が働かないけど、とにかく和泉君に謝らなくてはとメールを入れておいたら、帰国後即効で電話が掛かってきたのだった。


『マジ…?会えねえの?』

「ご…めっ……」

『いや、それより大丈夫か?』

ゼェハェという息遣いが聞こえているのだろう。

喋るのも辛いと察してくれたのか、ガックリしていた和泉君の声が心配そうなものに変わる。「大丈夫」と答えたいところだけど、正直大丈夫じゃない。

和泉君も、私が相当辛いのだと分かってくれたみたいだ。


『心配で今から会いに行きたいけど、俺が行ったらモカが休めないだろうからやめとく』

「ごめ…」

『いいから。ゆっくり寝て早く治して。治ったら、会いに行くから』


会えない寂しさと、私を気遣う和泉君の言葉が心に染みて、自然と涙がじわりと溢れてくる。


結局、最後まで声を出すのも辛くて和泉君とまともに会話もできなかった。終始「ごめ」しか言っていないように思う。

自分が情けなさ過ぎて、また涙が出てきそうだ。


『治ったらすぐ連絡して。すっ飛ばして行くから』

そんな和泉君の優しい言葉を最後に聞いて電話を切り、荒い息遣いのままゆっくりと目を閉じた。


ああ…情けない……。和泉君ごめんね…

そして、とにかく早く治さなきゃという意識も朦朧に、倒れるように眠りについた。


もちろんあっという間に治るはずもなく、一週間ほど自宅療養を余儀なくされ、これで和泉君と会えない日は計3週間となってしまった。


< 124 / 210 >

この作品をシェア

pagetop