君の背中に
少し走ってみた。

「…伶くん?」

「あっ、綾ちゃん」

「来てたんですね」

私の顔はきっと真っ赤だ。
熱さを感じた。
走ったからじゃない。

「うん、綾ちゃん美術部だっけ?」

知ってたんだ。

「版画体験やってたよね、
 行こうと思ったんだけどさあ」

あの人がいたから。
そうでしょう?

「綾ちゃんも、里央のライブ?」

「そうです」

言葉を口から出すことだけで
精一杯だった。


ライブまで、あと10分ある。

それまでの10分間だけでも
一緒にいたいと思った。

でも里央が来てくれないと
私の心臓は破裂するだろう。
< 51 / 86 >

この作品をシェア

pagetop