君の背中に
「ごめんなさい、今子どもが」

「いいんですよ」

忙しい高校生に迷惑をかけてしまう。

早く出てきなさい、邪魔でしょと
言ってみるが聞こえていないのか
聞こえないふりをしているのか。


「ママ先に行っちゃうよ」

「いいの!」

「ハンコ作りに行くんでしょ?」

「作るの!」

―これには困った。


「あの、すいません。
 ハンコって、美術室って分かりますか」

私とほとんど変わらないが
少し若い男の人に尋ねられる。
…この声が聞こえていたってこと?
恥ずかしい。

「あっ、あっちみたいよ」

「ありがとうございます
 …大変そうですね」

俺が呼んで来ましょうか、と言って
すぐにその人は教室に入った。
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