君の背中に
「ママが呼んでるよー」

「お兄さん誰?」

「ママのお友達だよ、ママが呼んでるよ」

「ママが?」

「ハンコ作るんでしょ」


娘は帰ってきた。
なんていい人だろう。


「ありがとうございます」

「いいえ、可愛いですね」


高校生は忙しいらしい。
私たちの横を1人の女の子が
全速力で駆け抜けて行った。


「美術部に知り合いでも
 いらっしゃるんですか?」

「まぁ、ちょっと
 でも、相手に迷惑かも知れないから
 やっぱりやめようかと」

この人にもそれなりの事情が
きっとあるのだろう。

「ありがとうございました、
 私たちは行ってきますね」


いい人っているもんだな。
久しぶりの母校も悪くなかった。



「遅れてすみません!」

準備中の美術室から聞こえてくる
女の子の声。

「もうすぐだって、ハンコ作り」


結局娘は何も作れなかったようだが
予め用意されていたような
部員の作ったハンコを
大切そうに抱えて戻ってきた。


―END―
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