異世界にて

「は?」


「わたし“は”こっちです」


小さな声で、ぽつりと。

しかし、力強く呟いた。


「え…?」


菖蒲の呟きは、ダルクにははっきりと聞こえた。

――意味がわからない。

サクラと言い争っていた時、菖蒲は『こっちが本当だ』と言った。

しかし…今の菖蒲は『わたしはこっちです』と呟いた。

どちらが本当なのか…。

どちらも、嘘をついているようには見えない。


「ダルクさん、今の…忘れて下さい」


菖蒲はそう言って微笑むと、スタスタと先に行ってしまった。


「……なんなんだよ?」


ダルクの心に残るのは…菖蒲の、悲しそうな微笑みだけ………
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