〜初恋〜アナタに溺れる
少しずつ近づく距離。

どうしよう…。

こんな時なんて言えばいい?

笑って誤魔化す?

それとも…


「…もぉ、やだぁ〜、健哉ったら〜」

甘ったるい声。

鼻につく甘い香水。

緩く巻いた茶色の髪。

華奢で可愛らしい雰囲気の子。


私とは正反対。

すれ違ったのに…すぐそばに私がいたのに…

なんで気づかないの?

なんで優しい目でその子を見つめるの?



ねぇ!


なんで…


なんで手を繋ぐ必要があるの?


答えてよ。


分かるように説明してよ。


「…麻乃?ちょっと、やだ、何?」

立っていられるわけがない。

身体に力が入らない。

なら、しゃがみ込むしかないじゃん。

「…ごめん…志穂…早退する…」

震える声で涙ながらに言った。

「ねぇ、どうしたのよ?」

心配そうに覗き込んで頭を撫でてくれた。

「…っ…ごめ…ん」

それしか言えない。

泣いてるせいで、ちゃんと話す事なんか今出来ないよ。


「…有給使っちゃおっか。二人で」

手に持っていた携帯で電話をかける志穂。

『あ、チーフ?渋谷さんが急に貧血で、私病院まで付き添うので…はい、えぇ…すみません。では、よろしくお願いします』

パタンと携帯を閉じると、

「これでよし。さ、行くよ。うちでゆっくり話そ?」






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