〜初恋〜アナタに溺れる
イスに座るなり大きな溜息。

申し訳なさそうに見つめる瞳に私はことを悟った。

言いづらそうに口ごもる健哉に、私は笑顔で答える。

「いいよ。行ってきて。」

私の言葉にホッとしたのか口角をキュッと上げて微笑んだ。

「ありがと。ごめんな…いつも、ゆっくり出来なくて」

両手を顔の前で合わせて、再び席を立った。

会計を済ませてから外に出る。


さすがにこの時間はあまり人がいない。

「送っていけないけど、大丈夫か?」

「大丈夫。タクシーで帰るし。」

「気をつけてな。また連絡するから。」

「うん。あまり飲み過ぎないようにね」

「わかってる。じゃぁ、な?」

手を振って二人で歩いてきた道を、今度は一人で歩いて行く。

その背中を見つめたまま、少しの間動かなかった。





そして…


「帰ろ…。」

ポツリと呟いた時、後ろで声がした。

「帰るの?」

って…

「えっ!?」

驚いて振り返った私の目の前には…

もちろん、猛の姿があって。

「ちょっと飲まない?」

あまりにも真っすぐに真剣な瞳をするから。

「あ…はい。」

頷くしかなかったんだ。




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