〜初恋〜アナタに溺れる
結婚式の選曲の件で…

そう言った猛。

私は精一杯の笑顔で答えた。

「なんでもいいのよ。例えば…二人の思い出の曲とか、好きな曲とか、」

思い出の曲…。

あの頃、よく二人で聴いていた曲があった。

猛も、私も大好きなアーティストで。

懐かしい…。

今はもう聴かなくなってしまったけど、今夜久しぶりに聴いてみようかな…なんて思った。

「思い出の曲か…なんだろう?」

ぼんやりと心ここに有らず…みたいな猛。

声にも今日は張りがない。

ちょっと心配になるけど、余計なお世話だよね…

猛にはちゃんと絵里香がいるし。

そうよ。

猛には絵里香がいるんだ。

一時の感情なんか、捨てなければならない。

猛への恋はもう過去の話。

今はお互いに大切な人がいる。

「なぁ…」

猛が真っすぐに私を見て口を開いた。

「ん?」

「覚えてるか?俺達の思い出の曲…」

「えっ?」

何を言い出すの?

驚く私をよそに話を続ける猛。

「あの頃よく二人で聴いてたよな。」

思い出すように、遠くを見つめる瞳。

私達、今同じこと思い出してたんだね。

「うん…懐かしいね」

「俺、今でも時々聴くんだ」

目を細めて微笑む。

ダメだ…ドキドキしちゃう。

私は両手を膝の上で握りしめた。




< 97 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop