【完】君の笑顔
ペンを持ち、ゆっくりとサインしていく様子をただ見つめる。
どんな想いでサインしているのか想像できる。
これを提示されたって事は、いつ、その状況になってもおかしくないと言う事。
それくらい、悪いと言う事。
「これは、念の為の書類ですから。なるべく心ちゃんの承諾を得られるように説得していきたいと思ってます」
「…僕達も心に言います」
書類を受け取ってご両親の不安を少しでも和らげようと微笑んだ清水先生。
僕もなるべく穏やかな表情になろうと意識するが、多分出来てないだろう。
「宜しくお願いします」
話が終わり、立ち上がった僕と清水先生を見て、ドアの前で一度頭を下げると岡本さんの病室へ向かったご両親。
「高橋君」
その後ろ姿を見送っていた僕に清水先生は僕の肩にポンと手を置く。
「回診の時。その表情が心ちゃんの前で出ないように気をつけてね」
え、と目を少し見開く。
やっぱり清水先生みたいな穏やかな表情にはなれて無かったんだ。
「顔に出てました?」
「思いっきり。高橋君が心ちゃんの親みたいな深刻な表情になってた。
それを見ると誰だって不安になるよ?」
やんわりと笑う清水先生。