【完】君の笑顔
心を鬼に
気持ちを落ち着かせて岡本さんの部屋へと向かう。
表情に気を付けて。
前を歩く清水先生の背中を数歩後ろから見ながら、
清水先生に聞こえてしまわないように静かに息を吐き出した。
「心ちゃん、具合はどうかな?」
部屋に入って岡本さんのベットへと近付きながら清水先生が第一声を発する。
具合……悪くなっているのに、いつもどおりに自然に聞くことができる清水先生。
「絶好調です!」
そう答えながら珍しく岡本さんは清水先生に笑顔を向ける。
……本当に?
心の中で岡本さんに問い掛ける。
悪くても言わないから、無理して大丈夫って言ってるんじゃないかな?って思ってしまうんだ。
「それは良かった」
そう言ってにっこり笑った先生は、聴診器で岡本さんの心音を聞く。
「うん、大丈夫そうだね」
「あの!
清水先生にお願いがあるんですけどー……」
聴診器を外して首にかけようとした清水先生に向かって、服を正しながら、珍しく言葉を発したのは岡本さんで。
お願い……と言われ僕と清水先生は首を傾げる。
岡本さんがお願い事をするなんて本当に珍しい。
さっき見せた笑顔はこの為の物だったんだ……と納得してしまった。