【完】君の笑顔





「えっ?」



戸惑った声が僕の口からではなく岡本さんの口から出た。



そして、困惑の表情で清水先生を見る。



僕も同じように清水先生へと視線を向けた。



……退院?



次に発作を起こせば手術……と言った患者を退院させるなんて有り得ない。



でも、再検査で大丈夫なら退院させるのか……。




「あれ?退院できるのに喜ばないの?」



困惑の表情が消えないまま肩を落としている岡本さんを見て清水先生は不思議そうに聞く。



僕も不思議だった。



早く此処から出たい出たいと言って抜け出していたから。



“退院”と言う言葉を聞いたら喜ぶと思ったのに。



全然嬉しそうじゃない。




「退院は嬉しいですけど、退院した後じゃ遅いんです。
今すぐ許可して頂かないと」




目を伏せながら言う岡本さん。



退院できるかもしれないと喜ぶよりも

先にどうしてもそこへ行きたいと思う気持ちの方が今は強いらしい。



本当にどこに行きたいの。


行き先がかなり気になる。








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