【完】君の笑顔
何日も前から綿密に計画して、苦労してここまで来たのに岡本さんが素直に帰るとは思えない。
嘘を言ってるんじゃ?
それに、患者を置いたまま先に一人で病院に戻るなんて有り得ない。
良く耳を澄まして電話の向こうの様子を探る。
ガヤガヤと、人混みでは無い機械音が聞こえる。
この音……ゲームセンター?
岡本さん、ゲームセンターの近くにいる?
確か、ここから近い。
『だから、また後で病院でね』
歩きだした時、岡本さんは電話を終わらせようとする。
「あ、岡本さん!」
『何?』
思わず呼び止めてしまったけれど……もう話はない。
とにかく、岡本さんを見つけて無理矢理にでも連れて帰ろう。
今度は絶対に腕を離さないようにして。
「あ、気を付けて帰ってくださいね?
さっきみたいに走ったらダメだよ!発作起きたら大変だからゆっくり歩いて……」
だから、今は素直に帰るふりをしよう。
『分かったから。じゃあね』
普通ならウザイと返ってくるのに、素っ気なく返すけど、やけに素直。
向こうから切られて通話終了を知らせる電子音を聞きながら
絶対にこのまま帰るつもりは無いと確信した。