【完】君の笑顔
ごめん、岡本さん。
必死に手術しないで、って言われたけれどその頼みは聞けない。
岡本さんの命が、何よりも大事だから。
容態が落ち着いたのを確認してから、今度は手術の準備を始める。
……コンタクトを外していた時に、隣で手を洗っている清水先生が口を開いた。
「……やっぱり気が引ける?心ちゃんの承諾が無いから」
メガネをして、僕も手洗いを始める。
「出来れば岡本さんに手術を受ける覚悟をさせてあげたかったです」
次に目を覚ました時、突き付けられた現実を岡本さんが受け止められるかが心配。
何の覚悟も出来ないまま、手術をする事になってしまった。
最悪の状況。
「……いつも通りに進めていきましょう。よろしくお願いします」
「「はい」」
ふっ、と小さく息を吐く。
「……メス」
手に乗せられた、メスを掴む。
目の前には、ライトによって明るく照らされた、真っ白な傷一つ無い肌。
この肌に、僕が傷を付けるんだ。
「落ち着いてね」
向かいの清水先生を一度見て頷く。
そして、もう一回深呼吸をしてからメスを動かした――――