【完】君の笑顔
岡本さんの消毒も、本人の希望で清水先生がする事になった。
直接拒否されると、やっぱ少しへこむ。
僕の担当なのに、清水先生に迷惑をかけてしまって申し訳ないとも思う。
「気にしない。高橋先生みたいな若い先生に傷見られたくないって言う若い子の考えだよ」
消毒が終わってベッドから離れれば、清水先生が肩を軽く叩いてくれる。
……そうじゃないと思う。
もう僕に身体を触られたく無いんだよ。
無理矢理手術した僕に。
岡本さんは、なかなか手術した事実も、傷も受け入れない。
一日中ボーっとどこか一点を見つめていて、食事も完食どころかほとんど食べていない。
消毒の時は顔を背けて見ようとしない。
僕と視線も絶対に合わせない。
合っても言葉を交わさないし……。
話し掛けても素っ気なく返されるだけ。
「うん」とか「いい」だけ。
僕の顔を見るだけで、辛い気持ちになるのかもしれない。
そう思うと、岡本さんに気付かれないように様子を見に行く事しか出来なかった。
見に行ってもいつも変わらない。
あの、寂しげな表情しか最近見てない。
顔を出すのは朝、夕の回診の時にしかできなかった。