【完】君の笑顔





「で、どこに行くんですか?」


どこに連れていかれるか、窓の外の景色や方向で探ろうとしていたけど、分からなかったらしい。



「秘密」


着くまで教えるつもりはなくて、笑いながら答える。



「教えて下さい」



半ば苛ついた声を出しながらも口調は敬語。



「いつも僕が岡本さんにつれ回されてだから、今日は僕がつれ回すんで。
何も聞かずに付いてきて」



いつもと今日は立場逆転。



黙ってどこに行くのか分からないまま付いていく人の気持ちを体験してみて、と思う。




……それと。



「あ、それとその喋り方。止めてくれる?」



手術後からずっと思っていたけれど。



他人行儀な喋り方。



わざと距離を作っているような喋り方、しないで欲しい。



ずっと担当医だと認めて欲しくて、『先生』と岡本さんから呼ばれる日が来てほしいと思っていたけれど


そんな顔で、トーンで言われても、全然嬉しくない。




逆に、悲しい。


「いつもの岡本さんに戻って欲しいです」


もうこの際『高橋』って呼び捨てでも良いです。








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