【完】君の笑顔
「まぁ、間接キスもちょっとは思いましたけど」
ふてくされた岡本さんにボソっと呟くと、
「そんな事やっぱり思ったりするんだぁー!変態!」
からかってくる。
「……岡本さんが言い出したでしょ」
若いって言うか、元気が良いと言うか……。
「……ねぇ、なんで手術嫌なの?」
このままからかわれたままはさすがに。
即座に切り替えて、担当医としての疑問を彼女にぶつける。
……初めて声に出して彼女に拒否する理由を聞いてみた。
ずっと、何年も前から気になっていた事を。
「……嫌な物は嫌」
やっぱり、理由は簡単には教えてくれそうにない。
岡本さんの表情を見ず、遠くの花壇へと視線を漂わせているので
彼女が今どんな顔をしているかも分からないけれど、
声色からしてさっきまでの機嫌を損ねてしまった事は分かる。
「治るんだよ?」
でも、ここで終わるわけにはいかないんだよ。
なるべく早く、理由を聞き出して対処しないと。
僕が発言した後、黙り込んでしまった岡本さん。
僕も口を閉じてしばらくの沈黙が続いた時。
「……傷」
ゆっくりと、彼女の声が沈黙を破った。