【完】君の笑顔
「岡本さん?
岡本さーん!」
いつまで僕は無視されるのだろうか。
売店を出た後、レモンティーを両手で持ちゆっくりとした歩調で歩く岡本さんに声をかける。
この行動が岡本さんを苛つかせる原因になるんだよね……と自覚しながら。
すると、僕が岡本さんを呼んでから少しの間があった後。
「……高橋」
やっと岡本さんが僕の名前を呼んで振り返ってくれた。
間があった為、てっきりまた無視されたと思ってしまった僕は不意討ちの岡本さんのストップに慌てて自分の足も止める。
キュ……と、止まるために力を入れたスニーカーから音が出た。
「何ですか?」
やっと話してくれた。
僕は岡本さんとの距離を詰める。
岡本さんは何故か少し口角があがっていて。
何を言うつもりなのかと首を傾げる。
目の前まで近づいた時、ぐい、と腕を岡本さんに掴まれそのまま引っ張られる。
細い腕からはそれ相応の力しか出ていないけれど、僕はそのまま引っ張られて前屈みになった。
その瞬間、岡本さんの顔が動く。
「……さっき、嫉妬しちゃった。高橋が他の患者さんと仲良くしてるから」
耳元で囁かれた言葉。
すぐに近かった距離を離して岡本さんは僕の顔を見つめた。