【完】君の笑顔





一瞬。

何が起こったのか本当に分からなかった。




ふわっと僕のまわりの空気が動いたと思ったら、目の前の岡本さんの細い2本の腕が僕の方に伸びてきて。




その腕は、僕の首へと絡んだ。




……?




状況が理解出来なくて、固まってしまう思考。




必死に理解しようと僅かに顔を動かせば、すぐ横に岡本さんの頭があって。




柔らかい髪の毛が、横を向いた僕の頬に当たる。




体には、岡本さんの体が密着していて。




冷えきっていた体は、岡本さんの熱を奪って温かくなっていっているようだった。




……えっと、つまり。




今、僕は岡本さんに抱きしめられている……?







……有り得ない。




普通の岡本さんなら、僕に抱きつくなんて絶対に有り得ない事。




「冷たくて気持ち良いー」



驚いている僕とは反対に、岡本さんは抱きついたまま呑気な声を落とす。




すぐに離れてくれると思っていたけれど、よっぽど僕の体が冷たくて気持ちが良いらしい。




なかなか離れようとせず、むしろ僕の首に回った腕は強さを増した気がする。








< 72 / 268 >

この作品をシェア

pagetop