【完】君の笑顔
一瞬。
何が起こったのか本当に分からなかった。
ふわっと僕のまわりの空気が動いたと思ったら、目の前の岡本さんの細い2本の腕が僕の方に伸びてきて。
その腕は、僕の首へと絡んだ。
……?
状況が理解出来なくて、固まってしまう思考。
必死に理解しようと僅かに顔を動かせば、すぐ横に岡本さんの頭があって。
柔らかい髪の毛が、横を向いた僕の頬に当たる。
体には、岡本さんの体が密着していて。
冷えきっていた体は、岡本さんの熱を奪って温かくなっていっているようだった。
……えっと、つまり。
今、僕は岡本さんに抱きしめられている……?
……有り得ない。
普通の岡本さんなら、僕に抱きつくなんて絶対に有り得ない事。
「冷たくて気持ち良いー」
驚いている僕とは反対に、岡本さんは抱きついたまま呑気な声を落とす。
すぐに離れてくれると思っていたけれど、よっぽど僕の体が冷たくて気持ちが良いらしい。
なかなか離れようとせず、むしろ僕の首に回った腕は強さを増した気がする。