SAYONARA
 そう口にした彼女は口元を歪ませ、呆れたように目を細めて笑っていた。

 あたしの口から思わず声が漏れる。だが、歩き出した二人の耳には届かない。

 彼女は笑っていたのだ。功には決して見せることのない笑顔で。

 遠ざかっていく二人を見ながら、あたしは唇を噛む。

 功の嬉しそうに美枝の話をしてくれた時の表情が、あたしの良心を奪ってしまう。

 あたしと功のように親しい可能性もある。

それを確認したら二人の前から遠ざかろうと決め、距離をこれ以上広げないように後をついていくことにした。

 美枝の家が遠いということで駅まで歩くのを覚悟したが、彼女達の足はその先の大通りにある喫茶店の前で止まる。

二人は言葉を交わし、中に入っていく。

 あたしは遠目に入り口のガラス戸から二人の姿を確認する。二人は手前の窓際の席に座っていた。

 入り口部分が全面ガラス張りであることから、幸い死角にならずにすんだ。
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