SAYONARA
 美枝は小麦粉をカゴの中に放り込む。

 美枝の買い物に付き合っているのか、彼の買い物に付き合っているのかは定かではない。

 確実に言えるのは、二人でこうしているという事実であり、二人の雰囲気もどこか穏やかで優しい空気が流れていた。

 胃が胸焼けを起こしたみたいにムカムカする。

 彼は否定していたが、美枝はそのつもりではないのかもしれない。

 ここで二人の前に出て、美枝や彼に直接聞けたらどんなにいいだろう。

 だが、そこまでできるほど無鉄砲な人間ではない。

 動けないあたしを尻目に二人は笑顔で言葉を交わし、その場から遠ざかっていった。
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